いわぞうコーナー

「燃えろ、燃えるな、MGB」


<1> レーダー探知機

 わが相棒、MGBの検査証には「初度登録年;不明」と記載されている。

履歴が追えない不利をのぞけば、なんとも都合がいい。この2文字の恩恵は、排ガス規制や保安基準の該当時期を闇に包んでくれているワケで、つまり、ほとんど何でもパスできる。

 とはいえ、速度超過なんぞの現行犯だけは免れるすべはなく、いま流行りのレシーバーを供えたレーダー探知機を入手した。いや、正確には2ndカーのサルーン用にだが。

 新しい機械モノを買ったら、とにかく早く使ってみたいのは子供の頃からの性分、さっそくMGBに取り付けて「ピピッ」という探知音に期待を膨らませるのだった。どっこい、この63年MGBはバッテリーのアース極性が、いうところの「プラス・アース」だ。

 市販の電装品は、おしなべて当然ながら「マイナス・アース」仕様。電源はシガ・ライターのソケットであることが多い。とりわけラジオなど、本体ボディをアースに利用する製品は、よろず装着に難儀をする。
さて、そのレーダー探知機の電源端子、すなわちシガ・ライター形状のコンセントプラグを手にして、ハタと困惑した。うーむ、回路の改造はできないし、されど「ピピッ」は聴きたい・・・。結局、MGBのシガ・ライターのソケットを改造、しかも簡単至極な方法で!

 それが、ああ、ことの起こりである。ソケットを後ろ(裏)から眺めると、中心端子と外枠端子が見える。

67年以前の「プラス・アース」MGBは、中心端子=(−極)バッテリーに、そして外枠端子=(+極)車体に、それぞれ結線されている。その結線をあべこべにして極性を逆転させると、探知機のライター状プラグは、そのままソケットへ差し込んで使える。

 かくして改造を施し、準備完了。無人取り締まりカメラのある道路を理由無く何往復もすると、そのたびに「ピピッ」。うん、うん、と独りゴキゲンな、めでたいMGBだ。こりゃイイ。

 しかし、ちょっと考えれば解るようにシガ・ライターの外枠端子は(−)、MGBの車体も、そう(−)。助手席の足下に転がした簡易電源は、文字通り一触即発の位置関係にある。知った上での造作なので万全の注意をはらっていたの
だけれど、その日、元に戻すのが面倒で、探知機だけを外して「はいオツカレサン」とMGBのもとを離れた。なおもメデタイ。


<2> MGB炎上!!

 数日後、忘れもしない8月の水曜日。好天続きのこの日、スケッチブックをもってMGBを発進させた。2時間ほど走った先の高原で、のんびりと休日を過ごすためだ。

 ガレージを発って10数キロ地点。幹線国道から左折。2速へ。勢いよく左にハンドルを切り込むと、タイアは僅かな煙と悲鳴をあげてスライド。忙しくカウンターステアに移ったとき、なにやらゴム焼け臭い。

 「だれだ、焚き火してんのは??」だが、続くS字コーナーを控えては、それどころじゃあない。900kgのボディが左右モーメントの臨界域を出入りする。スタビライザーは軋み、両腕は激しいキックバックと格闘、タコメータの針はさらに踊る。
 ・・・ふう、緊張のタイトコーナーを抜け、下り直線に入ったそのとき、ウインドウ・デフロスターから白煙が吹き出した。

「なんじゃ、コリャ???」続いて、
「しまったっ!!!」
いまさら気づいても、もう遅い。すでにエンジンはストール。次にハザード一斉点灯。それからワイパー作動。さらにヘッドライトがつき、ヒーターが回る。すべて勝手にだ。それどころじゃないのは、ああ、焚き火でなくて当方である。
 無念と落胆の脱力感に支配されつつ、MGBを路肩へ導いた。まあ、下り坂で・・・よかった・・・。

 度胸を決めて「ドン!」とハンドルを切り込んだとき、床に転がっていたマイナス剥き出しのソケットは、物理的法則にしたがって車体のセンター・トンネルの方へ転がる。床マットを残して、トリム(内装)をすべて取り払っているMGBのセンター・トンネルは、もちろんマイナスの鉄板である。 

 南無三。
床には、だらしなく銅色さらけたソケットの電線がのたうちまわり、ダッシュボードの裏へ。やおらボンネットを開けて見れば、ヒューズBOXまでの電線が燃え上がっている。消火、消火!!
いわく「メインハーネス焼損」というべき症状。なんてこった。


<3> 火事場のバカ知恵

 さあ、困った。
 よーく見ると、束ねられた電線はそれぞれの皮膜が熔け合わさって、さながらカラフルな千歳飴のようだが、独りで洒落ている事態ではない。すぐそばに停まっていたトラックの運チャンが、
 「だいじょーぶかあ?」
「ああ、大したことないですーう・・・」(なにが、大したことないものか!)

 かくて大見栄をきった手前、なんとかしなくちゃならん。いや、このままでは、帰ることさえ叶わない。通りがかりのアベックは、物珍しそうに徐行する(しやがる)し、運チャンは再び睡眠におちた。JAFを呼ぶ手段も財布もなく、万事休す。しばしの「一休さん」を決め込んだ。

 まず、この上の類焼再燃を防ぐため、バッテリー端子を外す。続いてヒューズの全端子を外し、使えそうな電線をより集める・・・なんとか自走してガレージへ帰ろう・・・。

 燃えてしまった電線だが、勝手に電装部品が作動したという事実は、逆からみれば12Vがどこかで生きている証である。よく観察すると、後付けの電動ファンだけは助かっているよう。にわか一休は考えた。

 自動車が「走る」ために必要な電気は、イグニション回路だ。まず、集めた電線をつなぎ合わせる。次に「電動ファン」の電線を切って12V電源にする。そこを起点に「点火コイル(-)」=「点火コイル(+)」=「デスビ」=「車体アース」で、イグニションの1次回路が完結する。

 あとは、押しがけでエンジンは再始動するはずだ。

[付録解説]交流オルタネータ仕様の67年以降のMGBは、ご存じ「マイナス・アース」です。したがって配線は上記の逆で{イグニション12V=コイル(+)=コイル(-)=デスビ=車体アース}になります。もしものときのために・・・。
解説おわり。

 電線を細工し、原始的な配線を施す。恐る恐るバッテリー端子をつなぎ直し、ショートしないことを確認。まだツキがある・・・。運転席に戻ってス
ターターを試してみると、運良く反応するじゃないか。これは幸いなことだ。しかしてMGBは、短いクランキングの後、息を吹き返した。
ただし、電源はバッテリー。むろんダイナモ(発電器)はつながっていないから、走れるのは蓄電の限り、長くて200キロ程度。さらに、一切の電装部品は
作動不能(あたりまえ、電線が無い)。

 この後者には、いささか難儀した。なにしろ帰路は、10数キロとはいえ幹線国道。右左折はもちろん、車線変更や信号停止などで、ウインカーもブレーキ灯も無い。格好悪いと思いながらも、ぶつけられちゃ嫌なので、右手を伸ばして忙しく上下させる。はっは、手信号というやつだ。

 嘲笑に満ちた(と感じた)視線を浴びながら(ボンネットん中が燃えカスだなんて知らねぇだろ!)ただ前を睨みつけて、国道2号をひた走る。斜め後方の威張ったセダンが「プァッパーッ」と下品なホーンを(うるせえ!、こっちはさっき燃えたんだ!!)・・・、メゲるな、メゲるな。
 長い長いみちのりを経て、やっとガレージに帰り着いた。

 もう、イヤだ。


<4> ハーネス・ハーネス

 ガレージへ頭から突っ込んだMGBは、シートを被せられそのままの姿勢で3ヶ月を過ごした。
なんといったって、今回は不慮のトラブルじゃない。己のズボラが招いた不配慮だ。ガッカリもガッカリ、もうクルマを見る気もしない。それでも修理に必要な「メイン・ハーネス」だけは、英MOSSへ注文をしておいた、毎度かかる2週間の日数を見込んで(届いたって当分やらないもんね)。
 ところが、どうだ。こういうときに限って、10日も経たないうちに、チャッチャと送られてくる。畜生。

 やおら重い腰が上がった。

 久しぶりにシートをとったMGBの座席には、あのときのまんま焦げて固くなった電線が散乱している。MOSSから届いた包みを開封し、ハーネスをエンジンル
ームにあてがってみるが、そんなモン、何がどの線だか判るワケがない。また嫌になった。

 でも、でも、やらなくちゃMGBは二度とは動かないのだ。あの爽快感、あの充足感、限りない感動は自らの手でつかむしかない。我ながら大袈裟な口上
であるが、このぐらい大袈裟でないと、れいの「蛇の八つ裂き」にも似たハーネスは、解明できたもんじゃあない。

 ヘインズ・マニュアルをはじめ、限りを尽くした資料収集にかかる。配線図を見ながら、エンジンルームのナニガシを熟学。1点でも意味不明の部品があっては配線できない。一方で、ハーネスの色、端子、経路を通電テスターで解明。くわえて、合理化やリスク回避のリレー回路を組み込んで、配線図を改訂する作業に追われる。
 乏しい知識に、前オウナーによる造作が、難解に難解の輪をかける。もう部屋中電線だらけで、おおよそ1ヶ月。寝ても覚めても、ハーネス、ハーネス、ハーネス・・・。

 最後のレンチを工具棚に戻して、すべての作業を完了した。

 注目の一瞬、バッテリー結線。もしも配線ミスがあれば、最悪の場合また火を吹く。もはや針で風船を割る心境。目をつむりのけぞって、端子をターミナルに接続・・・ん・・・うん、ヨシ!

 第2ハードルは、イグニション:ON。
「ヨーシ、ヨーシ、ヨシ、ヨシ、ヨッ、シーヨッシッ!!」
(なんじゃ、そりゃ)
 この際、もうなんでもいい。なんせ全関門を突破したのだ。いちいち驚喜の台詞なんぞにかまってられるか!

 続いてスターター:ON。

「キュン、キュン、ゴゥアーーーーン!!」かくしてMGBは、再びアイドリングを開始した。

 後日談。
 意気揚々とエンジンをかけたしかる後、なんとクラッチが貼り付いていて、ああ、またまた走行不能。3ヶ月に及ぶ放置にバチが当たったのか。ギアを入れセル・モータの力で無理矢理に引っ剥がし、ひとまず事なきを得たけれど、一難去ってまた一難。

 やれやれ、いつまで繰り返すのやら、さて。

(「燃えろ、燃えるな、MGB」おわり)


拙い長文にお付き合いくださり、ありがとうございました。
お味のほどは、いかがでしたでしょうか?
なになに・・・??

はい、ご感想、ご質問、ご指摘、ご罵声など、なんでも頂戴します。どうかお気
軽に・・・。

<<岩ぞう>>   IWAKUNI YAMAGUCHI 1963 MGB <<QWR07454>>


この記事は、岩国在住の岩ぞう氏の手記を編集したものです。